ご挨拶

 統合失調症、気分障害、発達障害などの精神疾患は、思春期前後の人生の早期に発症し、生涯にわたる治療が必要となることも珍しくない重篤な疾患です。驚くべきことに、ほぼ全ての精神疾患は発症原因や分子病態が明らかではありません。このため、疾患の理解に基づいた適切な診断や治療法の開発が困難な状況にあります。一方、疫学研究からは、両親の年齢、妊娠期のウイルス・細菌感染、周産期の状態、乳幼児期の養育環境、都市生活など、人間をとりまく様々な環境要因が精神疾患の発症リスクを上昇させることが明らかにされています。これらリスクとされる環境要因が個人の遺伝的背景と相互作用し、精神神経機能の発育・発達に大きな影響を与えていると考えられていますが、その分子メカニズムについてはほとんど解明されておりません。

 私は、これまで理化学研究所脳科学総合研究センター、東京大学大学院医学系研究科分子精神医学講座において精神疾患患者死後脳試料を用いたエピジェネティクス研究や体細胞変異研究など、神経細胞ゲノムDNAの動的側面や多型性に着目した研究を行ってきました。最近では、統合失調症患者神経細胞において、トランスポゾンLINE-1のゲノムコピー数の上昇が認められること、上昇の背景として遺伝要因に加え妊娠期のウイルス感染の可能性があることを明らかにしました(Bundo et al., 2014)。

 2016年2月より当分子脳科学講座に着任致しましたが、これまでの研究を発展させ、精神神経疾患の病因解明を主眼とした基礎研究に軸足を置きつつ、早期診断法や新規治療戦略の確立など、患者様に還元できるような道筋を提示できる研究を推進して参ります。

 

平成28年2月1日

 

熊本大学大学院生命科学研究部

分子脳科学分野

教授 岩本和也